TEAR Last Episode

喪主として、孫として、親族の代表として、葬儀を行う責任をともに担う。

担当者 野邑 博司
施行会館 ティア栄生

しっかりと喪主を務め、故人を見送る。不安やプレッシャーの中にある責任感。

はじめの打合せ時、喪主様の表情には不安がありました。故人様は、90歳を越えた女性。喪主様は40代の男性で、故人様のお孫様でした。ご両親は施設に入所されており、喪主が務められる状況ではなく、7年前にお祖父様が亡くなられた時も喪主を務められたとのことでした。7年前は、おそらくまだ30代でさらに若く、ご親族のサポートもあったかもしれません。しかし今回は、自分1人が中心となって、葬儀を進めていかなければならないでしょう。

「もし、喪主様の立場だったら…」と私は想像を巡らせました。ご親族の顔と名前が一致しないこともあるでしょう。幼い頃に会っていたとしても記憶にない叔父様や叔母様もいらっしゃるかもしれません。ましてや葬儀の流れも分からないとあれば、その不安やプレッシャーはとてつもなく大きいはずです。喪主様の表情には、そんな不安やプレッシャーとともに夜勤の仕事の疲れも出ているようでした。それでも「何も分からないですが、いろいろ教えてください」という喪主様の建前ではない本心の言葉から、「自分がしっかりと喪主を務め、親族の方を迎え、お祖母様を見送るんだ」という責任感がひしひしと伝わりました。

私はその想いを受け止め、サポートスタッフにも簡単な家族構成と今回の葬儀の背景を説明し、ご親族の方にもしっかりと目を向けていくようにと連携を図りました。

喪主様やご親族の方が困ったら、すぐに駆け付けられるよう、常に目を配る。

通夜が始まり、ご親族の方が続々と来場されました。喪主様は葬儀の準備をしつつ、顔を覚えていない親族の方が来られると親しい叔父様に尋ね、お一人おひとりに丁寧にご挨拶をされていました。

私は、喪主様を常にサポートできるよう、喪主様から見える場所にいるように心がけ、その場を離れる時には、どこにいるかを伝えてから移動しました。また、いつも以上に式場にいるようにし、ご親族の方に困った様子があれば、喪主様にすぐに伝えに行ったり、自ら「どうなさいましたか?」とご親族の方に声をかけました。

無事に通夜が終わり、喪主様のご友人たちから「お疲れ様」と声をかけられると、喪主様の緊張がほぐれ、少しホッとした表情を見せていました。

参列者が帰られ、喪主様とその娘様は会館に宿泊されることになりました。私は喪主様に「ご葬儀を完璧に進行することも大切ですが、お祖母様とお話ができるのは今夜が最後です。後悔のないよう、今夜はゆっくりとお過ごしください。ひ孫様には、お手紙を書いてもらってはいかがですか? お部屋に置いてある色紙や折り紙はいくらでも使っていただいてもかまいません」と伝えました。“喪主”という立場を離れて、お祖母様に可愛がってもらった“孫”としても、後悔のない葬儀をしてもらいたかったからです。喪主様は「ありがとうございます」と少し微笑んで、お祖母様と娘様とで最期の時間を過ごされました。

お祖母様が好きだった温かいうどんを受け取り、ようやく流れた涙。

翌日の葬儀でも、喪主様はご親族お一人おひとりに挨拶をし、式中でも参列された皆様に改めて丁寧にお礼の言葉を話されました。

そして最期のお別れの時。柩には、たくさんの花と、喪主様の娘様が書いた手紙、寄せ書きが並べられました。

最後に私は「こちらもどうぞ」と温かいうどんを喪主様に差し出しました。麺類、とりわけうどんをよく召し上がっていたということを事前に伺い、会館にある台所で作ったものでした。喪主様は驚いて「最後の最後まで、ありがとうございます」とうどんを受け取ると、そこでようやく涙を流されました。

喪主様は、参列者をすべて見送ると私のところにやってきて「野邑さん、本当にお世話になりました。ちゃんとできたかな?」と不安げにおっしゃいました。私は「大丈夫です、ご立派でした」と答えると、とても柔らかい表情で笑われました。その場の空気が和み、距離が縮まったようでした。

葬儀が終わってすぐ、喪主様からお礼の手紙が届きました。手紙を書かれるようなタイプの方ではないと思っていたので、少し驚きましたが、一文字一文字をありがたく読み進めました。そこには、私だけではなく、今回の葬儀に関わったスタッフすべてに対しての感謝の気持ちが綴られていました。喪主様は、ご親族の方々にだけでなく、私たちに対しても誠実で律儀な方でした。

担当者の想い

野邑 博司

故人様を取り巻くすべての方々の気持ちに寄り添って、考えること。
担当者:野邑 博司

ここ数年、高齢化が進み、ご両親が先に他界されていたり、施設へ入所していたりなど、お孫様がお祖母様やお祖父様の葬儀の喪主を務められるケースが増えています。今回の葬儀の喪主様は私と年齢が近いのもあって、頼ってくださり、親族の代表として葬儀をしっかりと執り行いたいという想いを叶えたいという一心でした。喪主様の気持ちだけでなく、そのご両親、ご親族、ご友人など、故人様を取り巻くすべての方々の気持ちに寄り添うことの大切さを改めて実感しました。